NORIKO YAMAMOTO
ART WORKS
コーカサスの虜(2017)
作者の2016年以降のモスクワ(ロシア)での生活と、チェチェン共和国(ロシア)滞在の体験を通して、
民族共生と異文化理解について考える美術展。
コーカサスとは、
黒海とカスピ海に挟まれたコーカサス山脈とそのまわりの平地を含める地帯の名前であり、
グルジア、ダゲスタン、チェチェンなどをはじめとした共和国家の集合体であり、
多様な民族、言語、宗教が共存する謎めいた秘境である。
古くからコーカサスは、ロシアの文学の重要なテーマとして登場し、
プーシキン、トルストイ、レールモントフなどの文豪が彼の地を訪れ、その自然のままの美しさを描き数々の傑作を生みだした。
その一方で、チェチェン戦争に代表される長期に及ぶ紛争と治安の不安定さについて国際社会でしばしば注目を集めていた。
2016年秋、私はロシアのモスクワでチェチェン人の女の子と同居を始め、チェチェンについて様々な事を聞き知った。
彼女の独特な容貌、雰囲気、そしてイスラームの文化生活に私は強く引き付けられ、翌年春に彼女の暮らすチェチェンの首都グローズヌイに訪れた。
豊かな大自然と、温厚で美しい民、イスラームの文化に魅了され、私はコーカサスの虜になった——――。
展覧会の「コーカサスの虜」というタイトルは、トルストイの「コーカサスの虜」(кавкавский пленник)はじめとする同名の文学作品を継承した、
文学的コンテクストを踏まえて設定している。
また1997年には同じくトルストイの「コーカサスの虜」を、チェチェン戦争の時代に置き換えてオマージュした同名の映画がロシア人監督によって撮られており、
このタイトルは、ロシアとコーカサスとの重層的な関係性を象徴しているといえる。
これまで「コーカサスの虜」というタイトルで数多くの作品が、チェチェンという国とコーカサス地方を描き出してきたが、
私は2016年以降のロシアの旅を通して、日本人という第三者的視点から、チェチェン戦争終結以降の現在のロシアとチェチェンの姿を提示したいと考えている。